FD研修・国内派遣支援

当プロジェクト連携校・連携機関の教職員限定

京都FD開発推進センターでは、連携校・連携機関の皆様にFDの知識を更に深めていただくため、当センターが推奨するFD関連のセミナー等へ派遣支援を行います。

支援対象者)当プロジェクト連携校・連携機関の教職員
支援対象)支援対象イベント(詳細情報に【支援対象】と付いているイベントが対象です。)
※関西近郊のものは、支援対象とさせていただいておりません。
支援経費)交通費、出張費(日当)、必要があれば宿泊費 【佛教大学の規定に準ずる】
応募手順)詳細は「国内派遣 依頼フォーム一式(エクセル)」参照。
報告書)支援を受けた方は、報告書を帰着日より2週間以内に提出して下さい。報告書は当センター発行のニューズレター、ホームページ、活動報告書等に掲載されることがあります。あらかじめご了承願います。
応募先)お問い合わせ
応募期限)通常2週間前

国内派遣支援について(PDF)
国内派遣支援依頼フォーム一式(エクセル)

*支援対象以外のもので支援を希望するイベント等がありましたら、当センターまでご連絡下さい。
*その他ご不明な点がございましたら、当センターまでお気軽にお問い合わせ願います。

FD研修派遣報告

※報告内容を表示するには、それぞれのタイトルをクリックして下さい。

2009年6月6日(土)・7日(日)大学教育学会第31回大会 首都大学東京(東京都八王子市)
今回の大学教育学会大会のテーマは「教育者としての大学教員」であり、FD連携プロジェクト事業を進めるうえで、参考になる情報収集ができるよい機会となった。
 特に、シンポジウム講演・新潟大学:加藤かおり氏「専門職業人としての大学教員とその養成・研修 ―英国における事例の考察から―」は、問題整理がゆきとどいており貴重であった。
 内容は、大学教員が備えるべき「専門領域のディシプリン」と「教職専門能力」の両方を、どのような制度的展開によって克服するか、その事例を英国に求めたものである。本プロジェクトでは、去る2月に英国大学のFD視察を実施し、国の方針や各大学でのFDプログラムのあり方を学習した。英国HEAが認定する各大学のFDプログラム、そのアクレディテーション方法などについて、概要と実例を学んだわけであるが、その背景にある理論や政策方針は十分に理解できているわけではなかった。
 今回の講演によって、英国FDの理論的支柱と制度的工夫を整理し認識を深められたことは、今後の英国海外視察における検討事項を考えていくうえでたいへん参考になった。シンポジウムや分科会も有用であるが、特に夜に開催される懇親会への参加は外すことはできないと考える。非公式なFD関連情報を収集する絶好の場であり、京都FD開発センターの事業展開に向けて、協力者(セミナー講師や講演者、評価委員など)となってもらえる方々との知遇を得られるチャンスであることから、プロジェクトメンバーの積極的な参加を促したい。
2009年6月23日(火)国立教育政策研究所FD公開セミナー 文部科学省 講堂
1)特別講演「FD推進にあたってのFDer(ファカルティ・ディベロッパー)の役割
米国のFD専門家の団体であるPOD(Professional and Organizational Development Network in Higher Education)の元会長であるMathew.L.Ouellett氏より「FD推進にあたってのFDer(ファカルティ・ディベロッパー)の役割」と題し講演して頂いた。 講演では、アメリカにおけるFD誕生の歴史的背景、また現在までの発達段階を第1フェーズから第4フェーズに分け、そのフェースごとの課題とその解決策についてお話頂いた。
2)プロジェクト研究の成果報告
国立教育政策研究所による「FDプログラムの構築支援とFDerの能力開発における研究」の中で開発された「新任教員FDのための基準枠組」の狙いやその内容について説明がなされた。
今回開発された基準枠組は、全国の大学で設計された新任教員FDの実践例を分析し、内容の近いプログラムをグループ化し目的別にリスト化たもので、各大学でFDプログラムを構築する時に、必要なものだけを自由に組み合わせ設計できるよう工夫されている。
FD経験の浅い担当者にとっては、FDプログラムが可視化された基準枠組みは非常に有益と言えるだろう。
2009年6月26日(金)国際大学戦略セミナー 2009 ホテルパシフィック東京
1.招待講演「学習成果を重視した学士課程教育の構築に向けて:「学士力」提案の背景と大学の改革課題」 川嶋太津夫氏
(1)講演内容  高等教育の質向上として、「アウトカム重視のアプローチ」「学習成果についての解説」「今学士に求められる学習成果」「教学マネジメント改革の在り方」等についての講演であった。
(2)所感 学士課程の再構築に向けての審議会の委員をされておられるので、この答申内容の背景、目指しているところがよくわかった。特に、今後の教学改革にむけて、従来の学部型から、欧米型のリベラルアーツ型への再構築は説得力がありました。また日本にもIR,(教学マネジメント支援組織)CLT(学習・教授支援組織)などが必要だと思いました。
2.海外講演およびアウトカムズ評価実践報告(岐阜大学、玉川大学)
(1)講演内容 Bb社のアウトカムシステムの導入・活用事例の報告であった。海外講演は主にその体制と風土の改革事例であり、岐阜大学では、CST養成プログラムや社会人基礎力の取組の試行的活用、玉川大学ではリベラルアーツ学部における成績評価の試行的活用事例の報告であった。
(2)所感 大学の学習のアウトカムズが確立されていない段階で、アウトカムズシステムを導入しても悪戦苦闘するのみであるという印象をもった。また試行導入者からこのシステムにより、アウトカムズの問題点がうかびあがることが要望されたのは納得感があった。
3.招待講演「我が国の大学の致命的欠陥」 諸星裕氏
(1)講演内容  我が国の大学の致命的欠陥として、ミッションの欠如、学部教授会の弊害、職員の専門性欠如、マネジメントの欠如、成績評価システムの欠如などの問題点が、大変わかりやすく解説された。
(2)所感 「卒業生の80%が入学した時のintended majorと異なる専攻で卒業していく」「大学ごとに異なるミッションをもつべきである」「大学の中で他学部の授業がうけられない」「大学入学者の半分が、既に(高校時代に)大学1年生の単位を取得している」という話がとても印象的で、これらの課題は我が国いおいても早急に解決されるべき問題であり、日本もいずれ米国型の教学運営になるのではないかと思いました。
2009年7月25日(土)国立教育政策研究所主催第1回シンポジウム 文部科学省3階講堂
第1部の天野郁夫氏(東京大学名誉教授)の講演「大学改革20年と質保証問題」では、1950年代から現在に至る大学教育の質保証のあり方について、変遷と問題点、これから目指すべき方向が述べられた。そこでは、質保証のシステムとしての比重が、設置基準・入学試験から、第三者評価・学士力養成を目指した教育課程の充実へと移行しており、それにあたって重要な位置を占めるのが、教員集団(ファカルティ)の資質と責任であること、大学の拠って立つ基盤として、伝統的な学術分野が重要であることが指摘された。第2部では、5名のパネリストの基調報告とそれに基づく討論が行われた。その中で、榎本剛氏(文部科学省高等教育政策室長)の「設置基準などの質保証システムの見直し」及び、川島啓二氏の「大学教員の『質』を考える」から多くの示唆を得た。2氏の報告では、現在政策面で議論されている質保証のあり方や、FD活動推進にあたっての標準的かつ体系的な指針などが具体的に示され、今後のFD活動を検討する上で、たいへん有益であった。第1部、第2部を通じて、今後のFD活動は個々の授業レベルではなく、各大学の教育課程の改善が主な課題であること、その質を高め持続するシステムとしてFD活動が重要な意義を持つことが示されており、たいへん有益なシンポジウムであった。
2009年7月25日(土)青山学院大学現代GPフォーラム 青山学院大学
青山学院大学のヒューマン・イノベーション研究センター(HiRC)は、平成19年度文部科学省現代GP採択事業「ICT活用教育のFD/SDプログラム」を実施している。今回参加した研修会は、MS-PowerPoint(以下、ppt)の授業活用を目的とするワークショップとして開催されたものである。 単なるpptの活用スキル研修ではなく、pptの教育場面に特化したスキル、また状況に応じた活用方法の検討、に焦点をあてた研修プログラム内容であり、FD研修プログラムに編入する場合の参考になる。
具体的には、①色弱の学生を意識したスライド配色はどうすべきかに始まり、②授業用資料構成上の作成留意点が解説され、③実習としてテンプレート作成や音声・画像の埋め込み処理といった技術面での指導があった(英語発音練習教材やフォトアルバムを利用したポスターセッション資料作成など)。
最後にグループに分かれ、④実際の授業や教材にどのようにpptが適用可能かについて議論する時間が設けられた。ノートテイカー養成の自習教材、カウンセリング実習の予備教材、人文地理学における航空写真の変遷比較観察など、利用展開の可能性について意見交換をするなかで、ICTの授業活用のあり方について頭の中を整理する機会であった。
2009年8月28日(土)・29日(日)日本教育学会第68回大会 東京大学駒場キャンパス
二つの分野に絞って報告する。
 一つ目は、特別支援教育についてである。小中高に関してさまざまな発表があり、多くの問題点を指摘している。その中でも田部絢子らによる「全国悉皆調査からみた私立高校特別支援教育の実態と課題」では、調査の速報ではあるが、発達障害をもつ中学生徒は、きめ細かな対応を求めて公立より私立へ進学する割合が大きいという実態を浮き彫りにした。
 さらに、私立高校では学校生活の中で様々な配慮や対応をおこなっているが、私立高校に対する公的支援が困難であるために、特別支援教育体制の整備がまだまだ不十分であるという問題点が浮かび上がっている。今後、大学・短期大学でも特別支援教育への体制を整備することが急務であろう。
 二つ目は、大学の授業改善についてである。水原克敏らが「大学の授業改善におけるTA活用の可能性を探る」という題で、東北大学1年生対象の教養科目「教育学」の授業改善の実践報告をした。この授業では、大学院生2~3人をTAとして採用し、授業内容のフィードバックなどのためにTAの意見を取り入れ、授業の構成と実施方法を改善した。授業の構成は、学生に分かりやすいように明治から現代を4期で構成し、各期を(1)講義、(2)小ピック、(3)小討論の3回で構成するよう変更した。
 また授業前においては、学生が予習・復習をするためのプリントをTA主導で作成し、授業中にはTAから教員に質問することで学生の問いを代弁しまた、学生からの質問の促す役割も担っている。授業後には、学生からの授業に対するコメントをまとめプリントを作成するといったものである。
 この授業改善は非常に刺激的な試みであるが、全く同じことを他の教員が実施することは難しいであろう。しかし、この実践を部分的に取り入れることは可能である。「授業改善」に他者の視点が有効であり、さらに、学生に近い視点を持つ院生TAの活用が非常に有効であると感じた。
2009年8月28日(土)・29日(日)日本教育学会第68回大会 東京大学駒場キャンパス
2日間にわたり、さまざまな発表やシンポジウムを聞く機会に恵まれ、きわめて有益な経験となりました。この大会では、どのようにして教員の質を高めていくかという点に関して、いくつかの発表がありました。それらは「教員としての成長」とは何かという問題を追求していました。  現代は「評価の時代」と言われて、大学の認証評価や教員評価もその延長上にあるわけですが、それらは要素還元を主とした方法です。例えば、教員の活動を「授業」「学級運営」「校務分掌」などの分野に分けて評価をして、それらすべての活動が「よくできる」教員が望ましい教員であるとされています。
これらの要素還元的な方式はアメリカやイギリスで開発された教師評価の方法に立脚しています。自らの活動を細かく分析し自己評価して、それらの問題点を解決していくことで、教師としての成長が可能になるという考え方になります。 これらの考え方ですが、いくつか問題があるとされています。教師の成長とは、一直線的に進むのではなくて、スランプがあります。活動が低下していたときが長い目で見たら実は教師としての大きな成長期であったということもありえます。
ベテラン教員の大量退職の時代を迎え、若手の教員が数多く教育界に参加する時代ですが、英米で開発された評価方式を使うと同時に、その評価方式の欠点を補うような形でOJTが機能することが望ましいでしょう。日本では、伝統的に先輩教員の授業法を「盗む」文化があって、それなりに有効であったようにも思えます。昔から行われてきた方法、先輩教員から指導を仰ぐとか、同僚の教員と授業を見せ合って評価しあうという方法なども貴重だと思います。
このように、教員の成長とは、について貴重な示唆を得る発表が多かったように思えます。現代の最先端の研究成果に触れることができたという点で非常に有意義な2日間でした。
2009年11月21日(土)第3回大学セミナーハウスFD研究会 日本大学本部(東京都千代田区)
【基調講演】では、文部科学省大学振興課大学改革準備室長の今泉柔剛氏が行政が大学の質保証の立場からFDのをどのように捉えているかを具体的に示した。その要点は以下の通り。ステークホルダーである国民の信頼を得るために、大学の質が多様性を確保しつつ維持向上されなければならない。その具体的な道筋として、平成20年の答申「学士課程教育の構築に向けて」があり、FDは答申内容の実現に欠かすことのできない取り組みである。さらに、これには職員のSDも必須であるとの認識が示された。
【事例研究1】は、FDネットワーク「つばさ」の構築と展開について、山形大学高等教育研究企画センター教授、小田隆治氏が豊富な具体例を紹介しながら、示唆に富んだ紹介を行った。特に小規模大学でのネットワーク参加の有効性が明確になり、実際にFD活動が教育活動にとって有効に作用することが実感される内容であった。この魅力が、多くの参加校を巻き込むネットワーク形成に大きく寄与していると思われる。
【事例研究2】は、立命館大学教育開発推進機構教授、安岡高志氏が立命館大学におけるFDの組織化と実質化について紹介を行った。文部行政の動向を視野に入れながら、PDCAサイクルの重要性、同機構が立命館で展開している研修プロジェクト意義と実態が具体的に述べられた。以上に続いて、プログラムに基づく質疑応答が行われ、参加者からは、FD推進や組織化の実際について、問題点や留意点、具体的な助言の要望が多く寄せられた。多岐にわたるので、一々の紹介は省略するが、回答の要点は、FD推進に有効な共通のプログラムや形態はなく、各大学が実情をよく踏まえて、FD活動を展開する必要がある、その際に参考にすべき事例として、先行している大学の取り組みを充分に参照することが望まれる、FD活動推進の要として担当者の意欲が重要である、などの諸点が示された。
2009年11月23日(月)日本学術会議報告会 東京大学安田講堂
昨年12月の中教審「学士課程教育の構築に向けて(答申)」の過程で出された「審議のまとめ」段階で、分野別質保証の問題について同審議会から日本学術会議に対して諮問があった。「将来的な分野別評価の実施を視野に入れて,大学間の連携,学協会を含む大学団体等を積極的に支援し,日本学術会議との連携を図りつつ,分野別の質保証の枠組みづくりを促進する」と答申にあるが、この問題について諮問を受けた日本学術会議の審議経過と途中までの成果を報告するために今回のシンポジウムが開催されたのである。参加者は高等教育界の重鎮も顔を揃え、審議動向が注目を浴びていることがわかった。具体的に報告されたのは、大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会の下にある3つの分科会、1)質保証枠組み検討分科会、2)教養教育・共通教育検討分科会、3)大学と職業との接続検討分科会の進捗状況と課題である。1)のみが進んでいる模様で、各学問分野の質保証枠を《参考基準》として示すレベル、つまりガイドラインを提示する方向で議論がかたまりつつある。2)は教養教育のコンセプトがいまだ明確にできず、3)は産業界との調整論議が進まないままで答申に向けて議論が錯綜しているように見えた。ともかく、根幹となる1)の分科会の審議経過と答申内容の方向を知ることができた点については有意義であった。
2010年1月9日(土)青山学院大学第4回現代GPフォーラム 青山学院大学
今回は、青山学院大学・現代GP採択プログラム「ICT活用教育のFD/SDプログラム」の3年間の活動を総括する報告会であった。午後の4時間半を使っての活動総括ということもあり、内容はかなり圧縮され時間的に少々余裕のないものとなっていた。
報告会のプログラムは、1)ゲストスピーカー:川島啓二氏(国立教育政策研究所)の基調講演、それを受けて、2)3年間の活動総括、3)GPプログラムの企画から効果検証、4)ミニ実践プログラム、5)ゲストスピーカー:井上義比古氏(東北学院大学)の特別講演、の5部構成であった。
なかでも特に、1)の基調講演「新時代のFDデザインを考える」は、これまでの日本のFD活動の弱点を突くもので、FDの今後の課題について頭の整理をするうえで大いなる助けとなった。2)3)4)は実際のFD/SDプログラムの実施活動に関する紹介であったが、残念ながら配当時間が短く、プロジェクト遂行プロセスでの議論や葛藤などプロジェクトマネジメントの実相が垣間見えるような内容ではなかった。研修プログラムの開発と実施でGP採択期間がおわってしまった観があり、まだ学生教育や学習支援成果に関する成果・評価ができる段階には至っていないとの印象を受けた。こちらの戦略連携FDプロジェクトの最終年、2011年春の着地点に向けて、報告会の内容を批判的に参考にし、到達点に向けたプロジェクト計画や進捗管理、スケジュール設計を再考する材料となったことを喜びたい。
2010年1月23日(土)長崎大学FD・SDシンポジウム 長崎新聞文化ホール(長崎市)
 FDer養成WGでは大学執行部を対象とした講座、「FD執行部塾」(仮称)を計画中であり、そのための情報収集を兼ねて今回のシンポジウムに参加したので、ここではパネル討論「サバイバル戦略としての組織的教育改善」について報告する。
 理系私立大学、文系私立女子大学、短期大学、国立総合大学という異なった4種類の大学から、学長先生自らがパネル討論に参加しているという点が、FDに対する執行部の意識を象徴するものとしてまずは興味深い。
 それぞれの大学のFDへの取り組み、もしくは学長先生のFDに対する考えで目を引くものを紹介しておく。長崎総合科学大学では、月1回学内研究発表会を実施し、必ず各先生方に1回は発表してもらうという取り組みがなされている。活水女子大学では、大学人ではない一般企業や社会人(たとえばホテルの支配人、塾の先生)を講師とした講演会を開催している。ただし、講演会だけでは不十分で、あわせてワークショップも開催している。長崎短期大学の安部学長は、私学には有能な職員が必要であることを強調されていた。長崎大学の片峰学長は「教養教育の改革」という構想のもとでの組織的教育改革を提言されていた。
 地元からの参加者が多かったのであろうか、意外と質疑応答が盛り上がりを見せなかったので、僭越ながら「何をしてもFDやSDに関心のない教職員、いわゆる『深海魚』について率直にどのように思われますか」という質問を投げかけてみた。活水女子大学の奥野学長は、全学で均一的なFDが行われるというのは逆におかしいことであり、FD・SDに熱心でない教職員も取り込めるような組織作りが大切だとの応答があった。また、片峰学長は応答の中で、授業評価をするにしても、クラスの大きさといったさまざまなバイアスを考慮して公平に評価できる評価法の開発が必要であるとの指摘をされていた。
 各大学で実践しているFD・SD活動のついての形式的な報告を聞くのではなく、大学トップのFD・SDに関する自らの熱い思いも拝聴することができ、100分がとても短く感じられるパネル・ディスカッションであった。
2010年2月22日(月)金沢大学 大学教育セミナー 金沢大学サテライトプラザ(石川県金沢市)
「アクティブラーニングが創る大学教育の未来」
日本の高等教育界でここ数年で口に上るようになったアクティブ・ラーニング。しかし、実情は共通の定義すら存在せず、従来の講義型(座学)学習からの脱却を目指す形態の授業を指すにすぎない段階にある。あえてまとめれば、「授業者からの一方向的な知識伝達型授業(受動的な学習)ではなく、学習者の能動的な学習を取り込んだ授業形態(教授法・授業デザインなど)を特徴づける包括的用語」という程度のとらえ方ができるだけである。忘れてならないのは、こうした動きの背景にある授業観の変化である。①「知識が伝えられるだけの場」から「学習者間や人工物の相互作業を通じて、知識が再構成される場」へと学びを変えていくこと、②それによって学生の「メタレベルでの学習」を支援すること、に焦点があてられるようになってきた。こうした教育は、アウトプットの評価だけでなく、学習プロセス全体を含めた評価にならざるをえず、学生の学習方法(つまり、学びのマネジメント)の改善も含め、どのようなことが可能かを真剣に議論する時期に差しかかったということである。
現状としては、グループワーキングや実習を含めた授業展開により、学生たちの学びが活性化させる仕掛けを模索しつつ、実施形態のヴァリエーションを増やすことで実践経験知を積み重ねる過程にあるといえる。東京工業大学の事例、白鴎大学の事例、そして東京大学(駒場)での事例が紹介されが、どのような学習環境を準備すればアクティブな状態になる仕掛けとなるのか、どのうような課題の与え方をすればアクティブな活動が生じるのか、どんな教材や機器を援用すればアクティブな姿勢が生まれてくるのか、について真摯な議論が展開された。今後この種の事例報告等を見据えながら、各大学での最適解を見つけ、教育プログラムに組み込む試行が望まれる。京都FD開発推進センターとしては、京都地区の教育資源を活かした手法を開発できるよう、他地域での実践情報に留意しながら準備を始めるべきである。
2010年4月19日(月)私大協・私学高等教育研究所公開研究会(東京・千代田区)
2009年に実施された全国大学学科長対象の「学士課程教育改革の現状」に関する調査の結果にもとづき,標記のテーマについて次の3つの報告があった.
(1)「学士課程教育はどのような歴史的展開を経て生まれたのか」杉谷祐美子氏(青山学院大学教育人間科学部准教授)
「学士課程教育」は米国の「Undergraduate教育」に対応する用語として検討された.その過程では,「大学4年一貫教育」という理念,知識習得より能力育成型の教育,組織と課程の分離,目的達成のための授業科目という視点,体系的教育課程などが議論された.その結果,教養教育と専門教育の科目区分を超えた4年一貫の学士課程の必要性が認識され,平成20年末の「学士課程教育答申」に至っている.
(2)「学士課程教育の改革はどこまで進んでいるか」串本剛氏(東北大学高等教育開発推進センター講師)
調査の設計および分析結果について報告された.今回の調査はいくつかの先行調査(学士課程教育に関する調査)の結果に見られる問題点(不明点)を明らかにするものである.その主なものは,教育方法を調査対象に含める,より教育現場に近い学科長に回答を求める,近年の改革に対する賛否の現状,学士課程教育に対する共通認識の程度,現状認識の規定要因などである.結果は,全体的な傾向の他,分野別の比較として報告された.
(3)「学士課程教育のこれからの課題は何か」濱名篤(関西国際大学理事長・学長)
上記(2)の調査結果報告を受ける形で,改革の課題について,検討結果が報告された.教育目標の設定では,伝統型の設定(「○○を教える」と標記)がまだ多いこと,学習効果が期待できるとされる学習法の導入は不十分であること,大学は学外者の介入(外部評価など)を嫌う傾向にあること,教員の組織と学生の組織を分離することには賛成が少ないこと,などが報告された.改革の課題としては,学外有識者の参画を得たPDCAサイクルの導入による改革が低調である点,高校教育の質保証の問題,行動目標型目標設定の大学とそうでない大学との改革の差が出てきている点,普遍的な質保証の仕組みが不可欠である点などが指摘された.
2010年9月11日(土)・12日(日)初年次教育学会大会(東京・杉並区)
1.シンポジウム「初年次教育のリアリティから質保証の意味を考える」
FD活動と初年次教育との関わりを視点に学士力養成の質を高める取り組み(宮崎学園短)、経済系大学における少人数の初年次対象セミナーの実施を通じた基礎力養成と就職内定率向上の取り組み(高千穂大学)、大規模総合大学における自己点検評価を通じたFD活動の展開(千葉大学)の3者が報告され、質疑が行われた。報告と質疑を通じて、学士課程構築に向けての指針が、各大学で具体策を伴って実践されていることが示され、他大学を啓発するところが大きかった。

2.自由研究発表「文章表現・論述」及び「正課外教育・学生支援」
それぞれ5本の発表があった。前者では、専門によって必要とされる文章表現力が異なるので、その学科の特性に応じた指導内容が求められること、協同学習の手法が表現意欲の向上にとって効果的であることが示された。後者では、正課として学ぶ専門知識や技術を補完する要素として、学習者のモチベーションの持ち方が重要であることが示された。とくに看護、福祉など対人間的な支援活動が要求される分野での、しかるべき「態度」の養成が、今後取り組むべき重要課題であることが明らかにされた。

3.ワークショップ「文章表現科目を開設・実施するために」
京都文教大学と河合塾との共同開催で、文章表現力養成の科目設定にあたっての具体的な指針と手順を提示し、参加者がその手順を体験するという内容であった。まず、予定する科目の目的、指導内容、レベルと、受講生の特性、目標、レベルとをチェックリストによって確認し、科目のアウトラインを決める。その上で、15回を1セットとする授業での個々の時限の指導内容と方法とをきめ細かく設定するという手順である。ワークショップ参加者は4名ずつのグループに分かれて上記の作業を実際に行い、グループ内での討論と結果を全体に報告した。アクティブな内容で、ワークショップ本来の特色が生かされた機会であった。
2010年9月14日(火)大学コンソーシアム石川短期大学FDフォーラム(石川・金沢市)
 フォーラムの内容は、企業による報告と、短期大学における取組報告およびディスカッションであった。
 企業から見た場合、短期大学出身者の利点や特徴は特に見出せない。また、印象として、短大は四大の一般教養のみ、専門学校は四大の専門技術・知識のみとのこと。基調講演のIT企業では、過去5年に短大出身者の採用はない。報告3の信用金庫でも、短大出身者と高卒者に明白な能力差はない。ただ、短大出身者は離職者が少なく、主任級の平均年齢が高卒者よりも低いのが特徴と言えば特徴とのことであった。いずれも強調されていたのは、コミュニケーション能力の重要性であり、資格や技術は入社後取得可能とのこと。
 短期大学の報告からは、就職支援と持続的な就業力の双方を視野に入れる必要があることがうかがえた。まず、金城大学短期大学部では、平成16年度特色GP採択取組として、教職員のキャリアカウンセラー資格取得支援を組織的に行っている。現在、多くの教職員が資格を持って学生支援に臨んでおり、就職率向上に寄与している。小松短期大学では、「キャリアガイダンス」の授業を設置している。ただ、平成22年5月17日中央教育審議会報告で、「社会的・職業的自立に必要な基盤となる能力」が、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」と定義されていることに鑑みると、就職指導だけでなく、生涯を通じた持続的な就業力、例えば、定着率向上や転職のためのスキル獲得を視野に入れ、カリキュラム全体の見直しが必要になるとの認識を持っているとのことであった。
 全体として、企業の求める能力と短期大学のキャリア教育の実際を突き合わせて学ぶことのできる機会として有益であった。特に、コミュニケーション能力と積極的に学ぶ姿勢が必要であり、こうした能力の育成は、カリキュラム全体において検討する必要があることが認識できた。
2010年9月21日(火)社会人基礎力育成事例研究セミナー(愛知・名古屋市)
1.シンポジウム「初年次教育のリアリティから質保証の意味を考える」
 4つの講演とパネルディスカッションが行われた。
 最初に,河合塾の山本氏(経産省委託事業事務局)から,「社会人基礎力 育成の手引き」という冊子にまとめられた内容について報告があり,社会人基礎力3つの力,12の能力について,企業側の学生に対する評価と,学生側の自分自身に対する評価の食い違いについて,詳細なデータに基づく報告がおこなわれた。要約すると,学生は自分が主体的に行動していると思っているし,コミュニケーション力が不足しているとは認識していないが,企業はこの2つの能力について力不足を感じている。また,忍耐強さに関しても学生側にその能力が欠けていると考えている。このような,学生側と企業側のそれぞれの思いの違いが目立つという報告であった。
 3つめは大阪大学光化学センター特任研究員の根岸氏からの報告で,学生の自己評価,自己の活動の振り返り等に際して,共感的な関わりと学生への評価の可視化が,自己の客観的な評価につながるという,非常に説得力のある講演であった。また,同じネガティブな面の指摘であっても一方的にダメ出しをする指導は最悪で,問いかけ的なアプローチが効果的であるなど,実践的な内容で非常に参考になった。
 4番目は愛知学泉大学の村林氏の,「コミュニティ運営実習」という正課カリキュラムの中での実践活動を通じての社会人基礎力をどのように獲得させるかという試みに対する報告で,これも大変参考になった。基礎力では「チームで働く力」も重視されているが,実社会と関わりを持って活動していく中で,お互いが自分の役割を自覚し,他者から肯定的に評価を受けた自分を振り返ることで,自分の行動を客観的な視座に置き換えていくことの重要性の気づきが促進されるといった内容であった。